
2018年の大河ドラマとして発表された「西郷どん」(せごどん)は林真理子原作の物語です。
林真理子原作「西郷どん」で描かれている西郷隆盛は、難解でおもしろく、彼に会うすべての人が魅了され、愛さずにはいられない存在として描かれています。
これまで幾人もの作家が西郷のことを書いてきましたが、そのどれとも違う面を見せてくれます。
林真理子原作の「西郷どん」は、西郷隆盛と奄美大島で知り合った愛加那との間にできた長男菊次郎が京都市長に就任するところから物語が始まります。
助役の川村に乞われ、菊次郎からみた父西郷隆盛が語られ始めます。
目次
林真理子原作の「西郷どん」で描かれている西郷隆盛の人物像
西郷隆盛は幼名を小吉、通称吉之助といいます。
西郷は生涯、天を敬い、人を愛する「敬天愛人」という思想の元に行動します。
西郷は両親を早くに無くしました。
これは西郷が尊敬していた儒者佐藤一斎の常に天を意識していた教えとキリスト教の教えが一致した考え方からなるといわれていますが、何より母満佐(まさ)の深い深い愛情によるものだとしています。
両親を早くに無くした西郷でしたが、母の思い出は暖かく心に残っています。
朝から晩まで身を粉にして貧しい西郷家の為に働き愚痴を言うこともなく、持てる全ての愛情を子供たちに注ぐ、そんな母の姿におのずと、克己、利他という考えが巡り西郷の生き方の原点になっていきます。
母のおおらかな愛はその後の西郷のおおらかさにつながっていくのです。
西郷は己の貧乏なことに頓着することなく、より貧しいものには惜しげもなくありったけのものを分け与えます。
自分も家計を補うために役人の補佐として働いている立場なのに、困った人を見かけると、もういてもたってもおられず、自分がもらった給金も、果ては弁当まで全部与えてしまいます。
それによって西郷家はますます貧乏になり、家族も呆れますが、本人はその空腹を笑って済ませます。
笑って済ます西郷を見て呆れていた家族もやがて笑いに包まれます。
一家の面倒事も巻き起こしますが、明るさの元でもあるのが西郷その人です。
林真理子が描いた西郷隆盛と大久保利通の関係をとりなす薩摩の女たち
そんな西郷が愛してやまないのは郷土薩摩と、島津斉彬です。
林真理子原作の「西郷どん」の物語は、その憧れてやまない斉彬に抜擢され、斉彬の目指した「民の幸せこそが国を富ませ強くする」という志を引き継ぐという形で描かれます。
明治維新という日本の大転換を図っていくという大きな柱と、それに奔走する西郷の周りの人物を丁寧に描きます。
志はあれども、単なる貧しい下級武士であった西郷は斉彬の密命の元、江戸、京と奔走し次第に薩摩の主要人物になっていきます。
西郷と共にこの幕末で名をはせているのが大久保利通ですが、この二人は幼いころから深い同胞です。
しかし大久保利通はどうしようもない嫉妬を西郷に持ち続けます。
西郷はいつもいつも笑っていて出世欲も名誉欲もまったく下心がありません。
人に対しては真正面からふれあい魂で語り合おうとします。
そのためあらゆる階層のひとから絶大な人気があるのですが、それもまた本人は意に介さないという果てしない度量のある男として描かれています。
対して大久保は西郷を前にすると、引け目のような嫉妬のようななんとも形容しがたい思いにかられます。
その感情をうまくとりなしてくれるのが薩摩女である母や妻たちです。
女性陣のおかげでふたりの友情は壊れることなく続くことになるのです。
この二人が政治的同志にもなり薩摩藩を大きく動かしていくことになります。
林真理子が描いた西郷隆盛と愛加那とのラブストーリー
西郷の青年時代は篤姫との恋や仲間たちとの厚い友情、はたまたその仲間たちとの反目などで彩られます。
藩命により奄美大島に潜居させられた時愛加那と出会い二児を設けます。
この長男が先に登場した菊次郎です。
林真理子原作の「西郷どん」では、これまであまり知られていなかった奄美大島での愛加那とのラブストーリーが語られており、この島の人との交流もまた西郷に多大なる影響を与えることとなります。
西郷隆盛は結局三度結婚をし、島流しには二度なっています。
貧しいながらも愛情豊かな家庭で育った西郷ですが、三人のそれぞれの妻との暮らしもまた西郷の人となりを深いものとしました。
まとめ
林真理子版西郷隆盛はひとたび政治や交渉に立てばその革命家としてのゆるぎない自身にあふれていますが、素顔ときたら脇があまく、愚直でうかつ、と散々な言われ方です。
しかし、笑顔あふれる彼にひとたび会えばだれもが魅了され、何とも言えない愛嬌に周囲の人間も笑いに溢れる男として描かれています。
斉彬の残した「すべての民が幸せに暮らしてこそ日本は豊かになり強くなる」という思いと、「敬天愛人」のふたつの思いを柱に人を愛し、薩摩を愛し、日本という国を愛し、この日本に暮らす全ての国民を愛し、みんなが幸せならと見返りは求めない、愛を注ぎ続けた男、西郷。
エリートではなく、貧しさを知り尽くし、農民たちの気持ちを知り尽くした西郷。
国が生まれかわるときには死ぬ者がいること知っていた男、西郷は理想の国家の為に動乱の世を駆け抜けます。
人々から「西郷どん(せごどん)」と呼ばれた西郷を林真理子氏は最後までさわやかに描ききっています。